道産ワインと食のペアリング企画シリーズ
北海道のワイナリーはいまや50以上となり、さらに増え続けています。あたらしい日本ワインの生産地として注目されている北海道のワインと、それに合う道産食材を5回シリーズでご紹介していきます。地域食材とのペアリングを通して、発展目覚ましい道産ワインを体感してみませんか?
シリーズIII
注目の新設ワイナリー
~めむろワイナリー編
帯広市から車で30分ほど、日高山脈の麓に広がる北海道の十勝・芽室町は、小麦やジャガイモ、ビート、豆、キャベツ、長芋、ゴボウなど野菜づくりが盛んで、中でもスイートコーンの生産量は日本で一番です。
めむろワイナリーは、その芽室町に2020年に誕生した新しいワイナリーで、ここでしか生み出せないブドウの個性と特長を生かしたワイン造りを進めています。醸造所の開設と同時に高品質で特長にあふれる赤ワインを登場させた、注目のワイナリーを訪問しました。
めむろワイナリー尾藤代表に聞く
地元ブドウ農家の共同出資、民間100%の資金で設立された「めむろワイナリー」。その代表を務める、岐阜から十勝に入植して4代目の生粋の十勝農家という、尾藤光一さん(55)にお話を伺いました。
–めむろワイナリーを設立した動機は
実は、芽室の「町の樹」は痩せた土地に多いとされる「柏(かしわ)」です。つまり、ここの農業は元来、長芋やゴボウの栽培には向いているのですが、いろいろな品種の野菜を豊かに育てるためには、人の手による土づくりが不可欠な土地柄、ということです。
そこで自分は若いころから地元農家の仲間と一緒に、土壌中の微生物を活性化してミネラルバランスを整える「ミネラル農法」ともいうべき、土づくりの研究に取り組んできました。その結果、通常の営農に加えて、各々の土壌状態に即して1,000㎡あたり1kg 程度の追肥を行うだけで、大きな効果が期待できる土壌改善のノウハウを持つに至りました。現在、この農法を導入する農家は北海道全域で300件を超えており、その輪はさらに全国へと広がっています。
この研究の集大成として、ミネラル感が弱いとされる日本のワインを、いつか自分が土づくりで変えてみたいという夢を持つようになりました。
この研究の集大成として、ミネラル感が弱いとされる日本のワインを、いつか自分が土づくりで変えてみたいという夢を持つようになりました。
それからワインを始めたもうひとつの動機は、食の王国を自負する十勝の農家として、食と切っても切れない関係にある「お酒」を、いつかは作りたいという思いでした。開拓から100年を超えて、十勝は日本全国に対する「食」の安定供給はもちろんのこと、十勝ならではの食文化の醸成についても、農家が自ら取り組める時代を迎えたと実感しています。
突然降ってわいたコロナ禍も、一方では、地元から出られないなかで家族との暮らしをどう過ごすべきか、自分たちが望むライフスタイルとは何かを考える、良い機会だとポジティブに捉えています。ちょうどワイナリーの開設に重なったのも何かのご縁でした。
–めむろワイナリーの状況
日高山脈を超えた十勝地域は、日本海からの湿気を含んだ積雪が多い余市や仁木、岩見沢や三笠などの地域と比較して、気温はとても低いものの積雪量が少なく、それゆえにワイン用ブドウ栽培の環境は一変します。
ここでは後志や空知のように、冬にブドウの樹の芽を雪で覆うことができないために、シャルドネやピノノワールといった良く知られた欧州系品種の栽培が極めて難しいのです。そこで、十勝のワイン造りでは、そうした世界的にメジャーな品種の代わりに、もともと自生していた山ブドウと掛け合わせてできた、清舞(きよまい)や山幸(やまさち)などの山ブドウ系品種を活かす工夫を重ねてきました。
「芽室でも、自分たちの育てたブドウでワインを造るぞ」と生産者仲間に呼びかけて、それまで長芋やジャガイモを育てていた畑で、山ブドウ系品種の清舞や山幸を中心に、ツヴァイゲルトレーベなど欧州系品種も含めてワイン用ブドウ栽培に取り組み始めたのは2016年のことでした。
「醸造も自分たちでやるぞ」と決意したのが2018年。翌年の2019年2月には、民間資本100%で「めむろワイナリー株式会社」を設立。さらに2020年に醸造所が完成し、同10月1日に製造免許が下りるとともに、自分たちで育てたブドウを使って自ら醸造を始めました。
めむろワイナリーが扱うのは粒の小さな山ブドウ系品種が大半ですが、雑味の原因となる不純物を、畑と醸造所のそれぞれで徹底的に手作業で排除しています。それは、「ブドウの品質を超えるワインを造ることはできない」という考えを、農家と醸造家がしっかりと共有しているからです。
また、ブドウの受入れから、選別、仕込み、発酵、瓶詰め、熟成まで、全ての工程をブドウ生産者ごとに分ける小ロット製造を行っています。それによって、ブドウ生産者ごとに特徴の異なるワインを商品化しています。同じ品種、同じ製造方法なのに、色合いやアロマ、味わいに差異があらわれる、それがめむろワイナリーの大きな特徴となっています。
山ブドウ系品種は粒が小さいので栽培・醸造効率がどうしても劣ります。でも我々は諦めず、どんなことがあってもワイン造りを継続します。それはワインを単体のビジネスとしてではなく、地域づくりの一環として位置付けているからです。うちは5代目にあたる息子二人も農場のスタッフとして頑張っています。彼らのまたその子供たちの世代に向けて、ワイン造りはその役目を、時間をかけて果たしていくことでしょう。
–今後の展開について
現在は4haの畑で年間7,000本の生産本数ですが、2年後には1万本、中期的にはすでに確保している8.8haのぶどう畑で6万本まで拡大できると見込んでいます。
我々の夢は高品質なワインで世界を目指していくことです。そのために、ワイン用ブドウ栽培にとっては寒くて雪が少ない十勝特有の環境を克服するべく、実は我々は、冬場にぶどうの樹を寝かしてビニールで覆うという方法にチャレンジしています、秘密だけど。
この手法で開花の立ち上がりを早めるとともに、培った土づくりのノウハウで、シャルドネやピノノワールといった欧州系品種の栽培を狙っています、内緒だけど。これが実現すると、十勝のワインづくりの歴史にとって画期的な出来事になります。 さらに加えて、すでに十分な実績を積んでいる十勝の山ブドウ系の品種と欧州系品種を掛け合わせる秘策など、十勝のワインが世界へと羽ばたく道のりは十分見えているのです。
しかしそれにしても、ワインは造り手のロマンとやる気を掻き立ててくれるんだよなあ~。(と豪快に笑い飛ばす尾藤さんでした)
めむろワイナリーを支える醸造家のご紹介
尾原基記さん
十勝ワインで12年間醸造を経験して、めむろワイナリーに入社。
十勝には現在4つのワイナリーがありますが、山幸や清舞など使っているぶどうの品種がおおよそ似通っています。めむろワイナリーはその中にあって、個性を追求して、十勝のワインに多様性をもたらしたいと思っています。小ロットの良さを活かして、ブドウの状態を見極めながら細やかに対応する、その結果、様々な違いを楽しめる希少なワイン造りを目指していきます。
めむろワイナリーのワインのご紹介
「めむろワイナリー」初醸造(2020年)のファーストヴィンテージ。北海道十勝産ブドウ100%の赤ワイン「AVVERARE~かなえる山幸 aged one year vin2020」は、山幸種(97%使用)に、芽室町産ツバイゲルトレーベなどをブレンドし、Seguin Moreau(セガン・モロー)社のフレンチオーク樽などで1年間じっくりと熟成させ、山幸本来の個性を求めて造りました。ハーブのような香りとしっかりとした酸を持ち、収斂味のあるワインに仕上がりました。
※「山幸(やまさち)」は北海道十勝池田町の十勝ワインで品種開発された山ブドウ系の醸造用赤ブドウです。2020年には国際ブドウ・ワイン機構(OIV)に、日本固有品種で3例目に品種登録されました。
「めむろワイナリー」初醸造(2020年)のファーストヴィンテージ。芽室町産ブドウ100%の赤ワイン「AVVERARE~かなえるRiserva【一年樽熟成】vin2020」は、清見種(81%使用)の特徴を最大限に生かしつつ、芽室町産メルローなどをバランスよくブレンドし、フランスのSeguin Moreau(セガン・モロー)社の新樽(フレンチオーク)で1年間じっくりと熟成させた特別なワインです。鮮やかなルビー色で穏やかな樽香、収斂味がありつつも、ひとくちごとに引き締まる、まとまりのある味わいのワインに仕上がりました。製造本数296本の希少なワインです。りつつも、ひとくちごとに引き締まる、まとまりのある味わいのワインに仕上がりました。
製造本数296本の希少なワインです。
内容量 | 750ml |
アルコール度数 | 11度 |
販売価格 | 5,280円(税込) |
内容量 | 750ml |
アルコール度数 | 11度 |
販売価格 | 6,050円(税込) |
シリーズ特別販売品
シリーズ特別オンラインセミナーへご招待
第3回目の今回も、広く皆様に、ワインクラスター北海道の代表である阿部シニアソムリエがご案内するオンラインセミナーのご視聴をプレゼントいたします。
雪が少なく寒さ厳しい十勝の冬は、ブドウ作りにとって厳しい環境と言えます。しかし、めむろワイナリーは野菜作りで培ってきた土づくりなどのノウハウを駆使し、高品質なブドウ作りを実現しています。ブドウ生産者の菊地英樹氏のお話から、めむろワイナリーのワイン造りへのこだわりをお聞きします。また、十勝の食材を知り尽くした料理研究家・栂安氏からワインに合う十勝の多彩な食材のお話もお聞きします。
【開催URL】
こちらのURLにてご参加いただけます。